相談者に合った仕事内容、働き方ができる職場を開拓してこられた伊藤早苗さんに、業務の切り出しを企業に依頼する際のアプローチの方法、企業側の興味に沿った話し方、会話のコツ、雇用につながったあとの定着支援のコツなどについて伺いました。地域に根を張るように様々なルートで就労支援の取り組みが秘訣のようです。
【業務の切り出しとマッチング】
その事業所との出会いと、業務の切り出しを依頼した経緯を教えてください
「どこに興味があるか」は人によって全然違うので、なるべく多く選択肢を持っておきたい。ということで、かなり色々な業種にアプローチするようにしています。製造業の事例については、「いい会社があるよ」という感じで紹介して下さった方がいたんです。その後、(製造業の会社の)社長さんに伺って、社会的な意識が高く、人を育てることにも興味がある会社だな、ということが分かったので、どんどん話をしていったという感じですね。
旅館の方は、中高校生の職場体験を受け入れていて、地域貢献に意識の高い旅館だということで、女将さんのことを知っている方が紹介してくださいました。
業務の切り出しと、ご本人とのマッチングはどのように進めていくのでしょうか?
私の方で「もっとこんな業務はありませんか」と切り出していくのではなくて、「こんな方がいるんですけど」ということをお伝えして、先方が「じゃあこんな業務はどうだろうか」と提案してくれるような流れです。会社に相談者をお連れして、工場を一通り全部案内してもらって、という感じです。
相談者の方と、受け入れ事業者の方のそれぞれの反応はどうでしたか?
ご本人は、見たこともない機械が並んでいたりするので、ちょっと最初は「難しいかも」と思うみたいですが、見学しながら企業の方から説明をしていただけるので、「それだったらやれそうかな」という感触はあるみたいです。先方は、既にかなり色々な人を受け入れてもらっているので、本人が自信なさそうな状態でも、「ここからやってみようか」という風に、やること前提に受け入れてくれますね。
旅館の方は、どのように業務の切り出しを進めていったのでしょうか?
あまり長々と打合せの時間を作ったというよりは、現場を一緒に見ながら、実際にどうしましょうか、という感じで話し合いました。あとは、「中高生の職場体験の際に、どんなふうに仕事を教えていましたか」「アルバイトの方だったら、どんなことをしていますか」とか。それを聞いていって、ユニバーサルに相談に来る方にも、そのお仕事だったらできますよ、とお伝えしていく感じです。お互いの事例を元に擦り合わせていきました。
相談者の中で、実際に就労に繋がった方はいますか?
旅館では、かなり長く続いて「来てくれて本当に良かった」と言われた方もいますし、短期間でやめた方もいます。先ほどの製造業の会社では、契約社員から始まって、3年くらい経った時に社員になれた方もいて、今までに紹介した方のうち、2人が正社員になりました。
【企業に初めて訪問する際のポイント】
今まで既に関係が構築されている企業のお話を伺いましたが、初めての企業に訪問する際のポイントがあれば教えてください。
「①自分が何をしにきたのか、②何をしてほしいのか、③それをすることによって企業さんに何のメリットがあるのか」、ここの3つを端的に伝えることが重要だと思います。メリットとして、人を育てることで、現場の方に人材育成の力がつく。業務の切り出しにより、効率が良くなる。長い目で見て、良い人材の獲得に繋がる、ということがあります。
あとは企業の方の反応を見て、どういうことだったら食いついてくれるかな、と反応を見ながら、お話していきます。「そういうところに若い人とかってくるの?」と聞かれたら、若い人の人材確保をしているのかな、とか。「うちの場合は基本切り出せるものはないと思うんだよね」と言われたら、同じような業種の企業さんのお話をするとか。その会社の興味に合わせてというか、問題意識に合わせてお話するのが良いかな、と思っています。
やはり「会話」が大事ということでしょうか
結構話していると、「過去にうちにもメンタルでやめちゃった人いるなぁ」とか、何かしらお悩み等が先方からも出てくるので、そんな時に、「うちでそういったことの相談に乗れます」というお話をしたりとか。ポイントとしては、先方に「うちでも出来る」と思ってもらうことがとても重要なので、一人目は大事にします。一人目で「すごく大変かも」「負担大きいかも」と思われちゃうと、なかなか次に繋がらないので、一人目はなるべく成功した、と思ってもらえるように適当な人を紹介しています。
相談者の中に就労に繋がりやすそうな人がいらっしゃるタイミングで、新規開拓をしなくてはならないのでしょうか?
そこは難しくて丁度よくはなかなかならないので、いい会社と巡り会えた、と思ってもそこにフィットするような一人目を紹介できず、時間が経ってしまったということもありました。そこのタイミングは多分皆さん同じように悩まれているのではと思っています。
就労にむけた準備が必要な方を会社につなぐタイミングはどうとらえたらよいでしょうか?
自分の中では業種だけじゃなくて、色々な受け入れレベルみたいなものを意識していて、例えば、「仕事自体まだしたことがない、外に出る事にも慣れていない方」から受け入れられるような職場か、「すぐ働ける状態に近い方」を求めているか、そういう職場のレベル、受け入れ意識みたいなものがかなり違うと思うんですね。そこは気を付けます。
色々な企業がある中で、伊藤さんの頭の中でカテゴリー分けがあるのでしょうか?
大体その辺はあって本当にぴったりフィットする、というところが思い浮かばない場合は、まずは経験として色々な業種を見てみる、という意味で、ショート型で体験してもらったりしています。色々な他の業種に興味があっても、ここを体験しておくと、次につながるよ、という感じです。
相談者を繋いだ後の関わり方について、ポイントはありますか?
実習中であれば、頻繁に会いに行きます。振り返りシート等の記録していただけるものをこちらで用意して、本人と企業の方に書いてもらいます。あんまり詳しい振り返りシートだと毎日書いてもらうのは大変だと思うので、現場の様子を見てお願いする、ということをしています。あとは、ご本人の気力がなさそうだなと思ったら現場で聞き取りしますね。1週間に1回くらいは様子を伺って、現場まで行かない時は、電話しています。
雇用に移ればそこに馴染むように、関わりすぎないようにしています。障害枠で入っているわけではないので、関わりすぎてしまうと、特別扱い感が出てしまうかなと。その方の会社に行って面談等はせず、その方がお休みの日に「最近どう?」というところで連絡したりくらいですね。
【地域のつながりをきっかけに】
先ほど事例の中で、企業を紹介いただいた、というお話がありましたが、どなたからご紹介していただいたのでしょうか?
お世話になっている会社に、「お付き合いのある会社でどこかありませんか」と言って紹介してもらったり、就労支援でお互い似たようなことをやっていたら紹介し合うこともあります。あとは、行政関係の方とか、仕事で関わった方、ハローワークの方等が、「こういう会社ありましたよ」とポロっと言ってくれたりしますね。私がこういう取り組みをしていることを知って、あまり就労支援に関係ない仕事をされている方が紹介してくれることもあります。
相談者と企業を繋ぐときのポイントはありますか?
自分が話す、というよりは、企業の興味やニーズを聞き出すのがポイントかなと思っています。自分の説明は、興味を持ってもらった部分だけ話せばいいだけなので。例えばですけど、人材獲得に興味がある、若手採用に興味がある、とかですね。採用まではないけれども、実習の場を用意するくらいだったら良いよ、とか。本当に来る気がない人は実習に来てもらっても困る、なのか、そのへんは企業の希望を掴むのは非常に大事かな、と思います。
伊藤さんが持つ地域の繋がりによって、企業を紹介してもらえたり、就労の場を作れるようになったことが分かりました。最後に、そもそも地域の土壌がまだまだ不十分だと感じる方に対して、アドバイスはありますか?
全然私も地域の繋がりとか持っていなくて。土地勘もないし、知り合いもいない、という状況だったんですけれども、とにかくまずは「こういうことをやっています。こういう会社を探しています」みたいなことを、自分から、機会があればどこででも誰にでも話すということかな。そうすると誰かがどこかで覚えていてくれて、お話しに来てくれる。
あとは地域のタウンニュース等の情報誌とかを目にして、ちょっと話題になっている会社があればアプローチしてみるとか。障害者雇用に積極的な会社、職場体験を受け入ている会社、とか、何か話題になっていれば、アプローチしてみるとか。常に地域で起きていることにアンテナを張るようにしています。
伊藤さんのスタートは、地域に知り合いがいないところからだったとのことですが、そういう取り組みを通して、どんどん地域に根差していらっしゃるんですね。これから企業開拓に取り組む方にとっては、企業との繋がるきっかけがどこにあるのか、というのが大きなハードルだと思うので、とても参考になるお話でした。ありがとうございました。