職業訓練で大阪を元気にすることをミッションに掲げ、「働きたい人」が働ける場所を開拓し、企業につなげている、A´ワーク創造館の勝壮士さんに、企業にアプローチする際のポイントや、自治体と連携して支援につなげる際の秘訣を伺いました。
企業にアプローチするポイントとは―
【企業にアプローチする際のポイントは4つ】
企業にアプローチする際のポイントをおしえてください
1つ目はハローワークなどに求人を出している事業所です。求人が出ている分、話に入り込みやすいです。
2つ目は飛び込み営業です。求人が出ていないけども今後求人を出す可能性があるところなどに営業をかけます。ただ、普通の企業開拓員や就労支援員さんがこれをやるのはかなり難しい部分もあると思います。
3つ目は自治体からの紹介です。これは一番いい方法です。支援員が知っている事業所や自治体の息がかかっている事業所であればうまくいきやすいです。
4つ目はすでに関係のある事業所から紹介してもらうパターンです。雇用がうまくいった事業所から人手が少ない事業所を紹介してもらって訪問します。あとは商工会です。商工会の会報に事業を載せてもらうと一気に情報が広められて、そのあと開拓できたこともあります。複数のパターンを使うとかなり開拓しやすくなります。
事業所に飛び込み営業をする際のポイントはありますか?
基本的に人が足りているところは話を聞いてもらえないので、人が足りてないなど悩みがあるところにアプローチします。ハローワークに出しても人が集まりづらい、いわゆる3Kと呼ばれるような若者のなり手がいない事業所だと話を聞いてもらいやすいです。
あとは事業所の大きさです。大企業はなかなか企業開拓が難しいです。受付で話が止まってしまうのと、上に話を通すまでに多くの人を通さなければいけないので難しいです。たまに大企業も開拓しますが、今狙っているのはすぐに話が社長に届くような、20人から50人くらいの中小企業です。
企業開拓員が飛び込みで行く場合はどう話はじめますか?
我々は大阪府の事業なので、府のチラシと各市が作るチラシの2枚を持っています。それを持って「大阪府(〇〇市)の事業で来ました」のように自治体の名前を全面に出していきます。そうすると「何者かわからない」という事業所さんの不信感を解消することができます。あとは無料の事業ということを伝えるのも効果的です。民間の人材紹介だと有料になりますが、うちは自治体の事業なので無料で紹介できます。それを伝えると聞いてみようかなという気持ちになってもらえることが多いです。
チラシも準備しているのですね?
1枚で見学から体験、雇用までがどのようなプロセスでできるのかが視覚的にわかるものがいいですね。受付で話を聞いてもらえないところには、パンフレットやチラシを置いて来るようにしています。ほとんどは協力事業所にはなってもらえないですが、たまに折り返し連絡がくるときもあります。訪問するだけでなく、何かを残してくることが大事だと思っています。
就労に困っている人を支援するというニュアンスをもつ「就労支援」という言葉への事業所の反応はどうなのでしょうか?
最初は「市役所に就労の相談に来る方がいるんです」という話をします。課題を抱えている人を受け入れる事業かなと思われるので、福祉部や生活保護、生活困窮などのワードは出さないです。「就労支援」という言葉は最後の方に出すようにします。「市役所に就職の相談に来ている方がいらっしゃるので聞いてもらえませんか。その中には就労に近い方、コロナで離職している状態で即戦力になる方もいるんです」という話し方をすると、メリットを感じてもらいやすいです。
福祉分野の人たちは社会貢献として課題を抱えた人をお願いするというアプローチをすることが多いのですが、それでは事業所の人はメリットを感じないですよ。もちろん社会貢献をしたいという会社もあるとは思いますが、小さい会社というのは本当に儲けないといけないし、人が欲しい状況です。だから事業所に対しては事業所の困り感をふまえたメリットをしっかり伝えるアプローチをしないと開拓には結びつきません。
【支援員向けの見学会で業務を把握】
訪問後の流れについておしえてください
事業説明をしてメリットを感じてもらえたら、まずは協力事業所に登録してもらいます。その後に支援員さんに訪問してもらい、取材をして事業所紹介シートの作成を行います。
訪問するのは就労支援員さんですか?
就労支援員や相談支援員、または管理職の方でも大丈夫です。支援員さんが見学すれば、うけもっている相談者の方に話がしやすくなります。座り仕事か立ち仕事か、暑いのか寒いのか、従業員の雰囲気などを支援員さんが直接見たものを伝えることができます。僕らが見てきて支援員に伝えてそれを相談者さんに伝えると又聞きになってしまいますよね。そうすると連想ゲームのように話が混乱してしまうので、実際に支援員さんに見てもらうことが必要なのかなと思います。
勝さんが業務の切り出しをする前に支援員さんが訪問に行くというかたちですか?
事業所と信頼関係を作ったメンバーが自治体の支援員さんを連れて行く感じです。そこに私もついていって取材をしてシートも作成します。事業所紹介シート作成の取材と支援員さんの見学を同時に行ってしまいます。事業所の方も忙しいので、迷惑がかからないように短時間ですべてをやるようにしています。
その場で業務の切り出しまでしてしまうということですね?
支援員さんが職場見学に行くと質疑応答の時間が必ずあります。その中でどんな体験、作業ができるのかという話もしてもらえます。それが事業所紹介シートを作るときの足がかりになるので、同時に作業の洗い出しをしてしまうのです。その場で質問をどんどん深くしていって、取材を完了し、その後事業所紹介シートを作ります。そうすることで相談者に紹介する際、支援員の直接の話と視覚的な情報がある状態を作ることができます。
そうすると業務の洗い出しシートはその場で作るという形ですか?
洗い出しシートのフォーマットを持っていって、それを取材メモのように使います。作業の内容や時間、発生する時間などをメモ代わりに取ってしまいます。
業務切り出しの際のポイントは何でしょうか?
初心者の方は業務切り出しシートを使って一緒に考えていくといいと思います。慣れてきたら質問をしながら切り出しを行います。
「まずはどんな仕事をしたらいいですか」のように1日の流れを質問します。メインの仕事はもちろん、月数回しかやらないような細かい仕事まで聞いていきます。そうすると何時に来たら何の作業ができるのかということがわかります。営利を主な目的とする事業所ではどの作業を切り出すかというところもポイントになります。製造業であれば初心者には難しい製造段階ではなく、初心者にもできる検品作業などを体験として切り出します。商品を知ることのできるようなサポート業務は、その後メインの仕事にもつながりやすいです。そして速さではなく、質を求めることができるくらいのキャパシティで体験プログラムをつくります。一番のポイントは「メインの仕事のサポートのもう一歩手前の作業」を事業所さんと話してうまく切り出せるかというところです。
支援員さんの見学で一回に見学に行く支援員さんの数はどのくらいですか?
1つの自治体で行くときは2~3人です。あとは大阪府の広域就労支援事業に入っている20の自治体を大きく3つにエリア分けしているので、そこの近隣の自治体で合同見学をすることもあります。そういうときは5から7人くらいになります。今はコロナの影響で1つの市ごとに案内しています。
大阪は近鉄線に沿って自治体が連なっています。その線を使えば、近隣の自治体でも働けます。複数の自治体と協力することで、その市だけのノウハウになることを防ぐことができます。それができるところが広域就労支援事業のいいところです。
【相談者と事業所のマッチング】
相談者の送り出し方についておしえてください
事業所のタイプを3つくらいに分けて考えるといいです。
図:受け入れ事業所のタイプ
1つ目は就労から遠い、就労準備の方を受け入れてくれる事業所。
2つ目は営利と社会貢献の間くらいの事業所。社会福祉法人や特別養護老人ホームとかが近いです。
3つ目は営利の事業所です。
例えば営利の事業所に就労から遠い人を送っても、事業所にとってはメリットがありません。だからその人の特性に合わせて、それぞれの事業所に送る人を分けていくわけです。就労準備の事業所ではコミュニケーションや体力を養いたいという方を対象に案内すればいいですね。ここでうまく行ったら次は社会福祉法人のような事業所に送り出していきます。ここで遅刻欠席もなく、コミュニケーションも特に問題がなければ、最終的に営利の事業所につないでいきます。この3段階の送り出し方が一つの方法です。
相談者の送り出し方にはもう一つあって、自治体の方での就労準備のメニューを通してコミュニケーションや体力を養っていく、職業適性検査を受けてもらって、合う事業所を探していくというやり方もあります。体験でも事業所を通じてステップアップしていけるし、就労準備のメニューを使って事業所に振り分けることもできるという二本柱のような感じです。
とにかく企業に相談者をつなぐということではなくて、その事前準備が一番大事で就労支援の腕の見せどころだと思います。事業所に誰でも見学・体験と誘導していたらそれはただの人材紹介と同じです。人材紹介と違うのは自治体がその事業所に合う人をしっかり選んで送り出すところです。だからこそこの事業が事業所にメリットをもたらすことができるのです。ハローワークや民間の人材紹介と差別化して、就労の練習をして送り出すこと。それを事業所にも支援員にも理解してもらうことが重要です。
このやり方について自治体の相談員さんにも理解してもらうことが大事ということですが、見学に行くことで理解してもらえるようになるのですか?
実は自治体の就労支援員さんの業務には中間的就労先の開拓が入っているのですが忙しくて、面談してハローワークにつなぐくらいしかできてない場合が多いです。しかし見学に行ってもらうことで、支援員自身で事例を進めることができるようになります。相談者の一人をモデルとして、見学・体験・就職そして定着支援という一連の流れをやってみると、支援員さんはこの取り組みを評価してくれます。支援員さんも自分の五感で体感することで刺激されるわけです、そして定着支援までつなげられれば自身の実績成果につながり、やりがいになります。最後がハローワークだけで終わってしまっては自分の実績にすることは難しいと思います。その手順を踏むことで自分の実績になるということを実感してもらうことが大切です。
自治体の支援員さんのやる気にもつながりますか?
ただ自治体の支援員さんだけでそれをやるのは無理だと思います。我々のような中間支援組織が自治体と事業所をサポートして、一緒に動いてノウハウを自治体に残していく、そういった組織も必要なのかなと思います。自治体もやりたいと思っていてもやり方やアプローチがわからない状況があります。だからこそ民間の事業開拓をしている組織が間に入ることでスムーズに回すことができていくわけです。
【自治体と中間支援団体の連携】
地域で業務の切り出しをやってみようとなって、誰がやるかとなったときに、自治体がやるのも一つの選択肢ではありますが、中間支援団体のようなものを作って業務委託するのも考えていくといいのでしょうか?
自治体にその役割を求めるのもありですが、なかなか難しいです。だから民間で就労支援をしている組織とともにやっていきます。支援員さんたちも企業開拓に関しては初心者ですから、私達がやって見せて一緒にやっていき、ノウハウを残していくことが大事です。業務委託は全てお任せが多いですが、広域就労支援事業に関しては一緒にやってノウハウを残しています。全国的にこういう形が増えると自治体の就労支援はかなり進みます。実際、大阪はすごく進んでいますよ。
中間支援団体の人がノウハウを身につける必要があると考えていますか?
A’ワーク創造館はかなり特殊な施設で、職業訓練や一般のお客さんへの講座提供、通信制高校への介入、行政の委託事業などを行っています。就労支援の総合商社みたいな感じですね。いろいろノウハウがあるからこそ、様々な年代、ジャンルの人に対応できています。だから、ひとえにこういった組織を全国的に作るのはなかなか難しいと思います。一つの組織だけで中間支援を担うのはかなり厳しいものがあります。
色々組み合わせていかなければならないということですか?
どう事業所を開拓していくかなども含めて、全てにおいて戦略が大事になってきます。
だからうちは事業部ミーティングを必ずするようにしています。担当するエリアがみんな違うので、各自治体や事業所が今どんな状況なのか、これからどんな戦略で動いていこうかというのを会議する場です。個別の思いでも小さな結果は残せるとは思いますが、やはりチームなので、チームでどう動いていくかと言うのが大事だと思います。それは自治体も一緒ですね。相談支援員、就労支援員、主任相談支援員、CSWも含めてメンバーと連携して、戦略をもって支援を進めていく、そういうコミュニケーションがないと失敗します。支援員さんが個人事業主になって自分のケースを抱え込んで私じゃないと支援できないというようになるのではなく、しっかりと情報を共有して、自分のもつケースを相談できる場作りができていれば就労支援も進むと考えています。
広域事業チームと自治体の支援員さんのコミュニケーションはどのようにしていますか?
月1回自治体主催の支援調整会議があります。主に生活困窮のケースを支援決定するための会議ですが、支援員が抱えるケースについて、アセスメントやどういったメニューを使って就労支援をしていけばいいのかなどの助言を行います。あとは我々が自治体に顔をだすことが大事です。近くに行ったら顔を出して獲得した事業所の情報などを共有する、イベントを一緒にするなど、顔を合わせて信頼関係を作っていくことが大事になります。自治体に対しても事業所に対しても、信頼関係さえあれば大抵のことはうまくいきます。全ては信頼関係を作るためにどうしたらいいのか。電話で済ませないでとにかく顔をだすことが大事です。
この事業のメリットは体験を経ることで企業とのミスマッチを減らすことができるところにあります。ハローワークを通して面接で採用しても、特に中小企業や製造系の会社などではすぐやめてしまいがちです。相談者が事前に自分の目で見て作業することで実感をもって職場を見られる、会社側も相談者のことを見られる。そうするとミスマッチは必ず減っていきます。
定着支援についてはどうですか?
雇用のあとの支援、定着支援を行うことができることもこの事業の大きなメリットです。支援員が事業所と相談者それぞれと連絡を取り合いながら、相談・フィードバック体制を作ります。双方が安心できる環境があって、事業所にも丸投げされるわけではないということを感じてもらえます。
一度就職できてもすぐ離職してしまっては意味がありません。それを繰り返すよりも1、2年という長い時間、手間をかけて支援して戻って来ないようにすることが重要です。就職にも練習が必要です。運転やマラソン同様、就労するための体力や技術を身に着けてから就職につなげる、そこが就労準備支援の腕の見せ所なのです。